1.3.2企業部門の研究開発費

ポイント

  • 日本の企業部門の2015年の研究開発費は13.7兆円である。2009年に落ち込んだ後は漸増傾向にある。米国は長期的に世界トップの規模を保っており、2015年では36.9兆円である。中国は、2012年にはEUを上回り、2015年では32.2兆円と米国に迫る勢いで増加している。
  • 2000年を1とした場合の各国通貨による企業部門の研究開発費の名目額と実質額の指数を見ると、名目額では、日本の最新年は1.3となっているが、その伸びは他国と比較すると少ない。一方、実質額で見ると、日本の最新年は1.4であり、米国、フランスを上回っている。中国、韓国は名目額よりは少ないが、他国と比較すると際だって大きな伸びを示している。
  • 主要国における企業部門の研究開発費の対GDP比を見ると、日本の2015年の対GDP比率は2.57%である。韓国は2010年から日本を上回り、2015年値は3.28%であり、主要国の中では著しく大きい値となっている。米国は長期的に見ると、漸増傾向にあり、2015年では1.99%である。ドイツは、1990年代の中頃から緩やかに増加傾向が見え、米国と同程度の比率となっている。2015年では1.95%である。
  • 日本の企業部門において、研究開発費が最も大きいのは「輸送用機械器具製造業」であり、売上高に占める研究開発費の割合が最も大きいのは「医薬品製造業」である。研究開発費から見た研究開発の規模と集約度は産業によって異なる傾向を示している。
  • 研究開発費から見た企業規模別研究開発の集約度は、日本は大規模企業で研究開発の集約度が高いのに対して、米国、ドイツ、韓国では小規模企業において集約度が高い。
  • 政府からの研究開発に対する直接的支援を従業員規模別で見ると、日本や米国では大規模企業に政府からの支援が集中しているが、ドイツや韓国では中小規模企業への支援も一定の重みを持つ。
(1)各国企業部門の研究開発費

 企業部門の研究開発費は各国の研究開発費総額の大部分を占める。従って企業部門での値の増減が、国の研究開発費総額に及ぼす影響は大きい。
 図表1-3-3(A)を見ると、日本の2015年(9)の研究開発費は13.7兆円である。2009年に落ち込んだ後は漸増傾向にある。
 米国は長期的に世界トップの規模を保っている。2008年をピークに減少していたが、近年、増加しており、2015年では36.9兆円である。
 中国は、2000年代に入り大きく伸びた。2012年にはEUを上回り、2015年では32.2兆円と米国に迫る勢いで増加している。
 ドイツは長期的に見ると増加傾向にあり、最新年では7.8兆円となっている。
 韓国は継続して増加しており、フランス、英国を上回り、2015年では5.9兆円となっている。
 フランスも漸増しており、2015年では4.1兆円である。英国は2000年代に入ると横ばいに推移していたが、2010年頃から増加しており、2015年では3.1兆円となった。
 次に、2000年を1とした場合の各国通貨による研究開発費の名目額と実質額の指数を示し、2000年からの伸びを見る(図表1-3-3(B))。
 名目額で見ると、日本の最新年値は1.3となっているが、その伸びは他国と比較すると少ない。米国、英国は1.8、ドイツは1.7、フランスは1.6である。中国の最新年は20.3であり、急激な伸びを示している。また、韓国の伸びも5.0と著しい。
 一方、実質額の最新年値を見ると、日本、ドイツ、英国は1.4であり、米国、フランスは1.3である。中国、韓国は名目額よりは少ないが、11.8、3.6と他国と比較すると際だって大きな伸びを示している。


【図表1-3-3】 主要国における企業部門の研究開発費
(A)名目額(OECD購買力平価換算)

(B)2000年を1とした各国通貨による企業部門の研究開発費の指数

注:
1)各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2)研究開発費は人文・社会科学を含む(韓国は2006年まで自然科学のみ)。
3)購買力平価は、参考統計Eと同じ。
4)実質額の計算はGDPデフレータによる(参考統計Dを使用)。
<日本>年度の値を示している。
<米国>2014年は予備値、2015年は推計値。
<ドイツ>1990年までは旧西ドイツ、1991年以降は統一ドイツ。1982、1984、1986、1988、1990、1992、1994、1996、1998、2015年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値。1993年値は他のクラスを含んでいる。
<フランス>1992、1997、2001、2004、2006年値は、前年までのデータとの継続性が損なわれている。2015年値は暫定値。
<英国>1986、1992、2001年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。2015年値は国家の見積もり又は必要に応じてOECDの基準に一致するように事務局で修正された推定値であり暫定値。
<中国>1991~1999年までは過小評価されたか、あるいは過小評価されたデータに基づいた。2000年、2009年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
<EU>各国資料に基づいたOECD事務局の見積もり・算出。EU-15の1991年値は前年までのデータとの継続性が損なわれている。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“National Patterns of R&D Resources: 2014–15 Data Update”
<ドイツ、フランス、英国、中国、韓国、EU>OECD,“Main Science and Technology Indicators 2016/2”

参照:表1-3-3


 各国の経済規模の違いを考慮して研究開発費を比較するために、企業部門における研究開発費の対GDP比率を見る(図表1-3-4)。日本の2015年の対GDP比率は2.57%である。1990年以降、トップクラスにあったが、2009年からは韓国が日本を上回った。なお、韓国の2015年は3.28%であり、主要国の中では著しく大きい値となっている。
 米国は長期的に見ると、漸増傾向にあり、2015年では1.99%である。ドイツは、1990年代の中頃から緩やかに増加しており、米国と同程度の比率となっている。2015年では1.95%である。
 中国の値は急激に上昇し、英国、EU、フランスの値を超えており、2015年では1.59%となっている。
 フランス、英国については2000年代後半から漸増傾向が見える。2015年ではフランスが1.45%、英国は1.12%である。


【図表1-3-4】  主要国における企業部門の研究開発費の対GDP比率の推移

注:
1)GDPは、参考統計Cと同じ。
2)図表1-3-3と同じ。
資料:
図表1-3-3と同じ。

参照:表1-3-4


(2)主要国における産業分類別の研究開発費

 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費について、各国最新年からの3年平均で見ると、製造業の割合は日本、ドイツ、中国、韓国では約9割である。他方、米国、英国、フランスでは製造業の割合が7~8割であり、非製造業の重みが他国と比較すると大きい(図表1-3-5)。


【図表1-3-5】 主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究開発費の割合 

注:
1)各国企業部門の定義は図表1-1-4を参照のこと。
2)米国の産業分類はNAICSを使用しており、企業部門の研究開発費には、NAICSにおける「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び「Public Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっているため、国際比較する際は注意が必要である。
<日本>年度の値を示している。産業分類は日本標準産業分類に基づいた科学技術研究調査の産業分類を使用。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF,“Business Research and Development and Innovation 2014”
<ドイツ、フランス、英国、中国、韓国>OECD,“Structural Analysis (STAN) Databases”

参照:表1-3-5


 日本、米国、ドイツについて、さらに詳細な産業分類別での研究開発費を見る(図表1-3-6)。ここでいう産業分類とは、各国が国際標準産業分類を参照して、企業部門の研究開発統計調査のために設定した産業分類である。各国の標準産業分類はISIC(国際標準産業分類)に概ね対応するように設定されているが、やはり国によって多少の差異が出てくる。そのため、ここでは産業ごとに比較するのではなく、その国の研究開発費における産業構造を見ることとする。
 まず、日本の産業分類別の研究開発費を見ると、製造業では、「輸送用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」が大きく、これに「医薬品製造業」が続く。非製造業では、「学術研究、専門・技術サービス業」が大きいが、「輸送用機械器具製造業」の約1/3程度である。
 米国について、産業分類別で見ると、製造業では、「コンピューター、電子製品工業」、「化学工業」、また「輸送用機械工業」の値が大きい。非製造業では、「情報通信業」、「専門、科学技術サービス業」が大きい。「情報通信業」については、2009年以降急激に増加しており、「化学工業」に迫る規模である。
 ドイツは製造業、非製造業ともに増加している。産業分類別で見ると「輸送用機械製造業」が特に大きく、製造業の約4割を占める。次いで「コンピューター・精密電子機器製造業」が大きい。非製造業を見ると、「専門的科学技術活動」が大きく、かつ増加している。


【図表1-3-6】 日米独の産業分類別研究開発費
(A)日本
(B)米国
(C)ドイツ

注:
<日本>産業分類は日本標準産業分類を基に科学技術研究調査の産業分類を使用。
<米国>産業分類は北米産業分類(NAICS)を使用。
<ドイツ>産業分類はドイツ産業分類(Klassifikation der Wirtschaftszweige)を使用。2015年は概算値。
資料:
ドイツはStifterverband Wissenschaftsstatistik, “FuE-Facts”、その他の国は図表1-3-5と同じ。

参照:表1-3-6


(3)日本の産業分類別研究開発費

 日本の研究開発は、どの業種において、より多く実施されているのかを見るために、売上高に占める研究開発費の割合を産業分類別に見た(図表1-3-7)。
 まず、製造業と非製造業を比較すると、前者が3.0%であるのに対して、後者は0.3%となっており、売上高に占める研究開発費の割合が10倍異なることが分かる。日本の企業部門における売上高に占める研究開発費の割合が最も大きいのは「医薬品製造業」であり9.0%を示している。次いで「業務用機械器具製造業」が7.4%と大きい。図表1-3-6で示したように研究開発費の規模が大きい「輸送用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」は、売上高に占める研究開発費の割合が必ずしも大きいわけではなく、「輸送用機械器具製造業」は4.6%、「情報通信機械器具製造業」は5.4%を示している。研究開発費の規模と集約度は産業によって異なる傾向を示している。


【図表1-3-7】 日本の産業分類別売上高に占める研究開発費の割合(2015年度)

注:
1)研究開発を実施していない企業も含んでいる。
2)全産業は金融、保険業を除く。
資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」

参照:表1-3-7


(4)研究開発費から見た企業規模別研究開発の集約度

 企業規模による研究開発の集約度を見るために、研究開発を実施している企業を対象に、企業の従業員数を一定数で区切り、企業規模別に売上高に占める研究開発費の割合を見た(図表1-3-8)。
 日本は従業員数1万人以上の企業において、売上高に占める研究開発費の割合が最も大きく、5.0%を示している。従業員数が少なくなるにつれて、その割合が小さくなる傾向にあり、最も小さいのは300~999人の企業であり、2.1%を示している。
 米国では、従業員数5~249人の企業において、売上高に占める研究開発費の割合が最も大きく、5.3%を示している。規模が大きくなるにつれて割合は小さくなる傾向にあるが、従業員数1,000~9,999人の企業において、また大きくなる。最も小さいのは従業員1万人以上の企業であり、2.9%を示している。
 ドイツでは、従業員数0~249人の企業において、売上高に占める研究開発費の割合が最も大きく、4.2%を示している。規模が大きくなるにつれて割合は小さくなる傾向にあるが、従業員数5,000~9,999人の企業で再び大きくなる。最も小さいのは従業員1万人以上の企業であり、2.4%を示している。
 韓国では、従業員数0~99人の企業において、売上高に占める研究開発費の割合が最も大きく、3.7%を示している。規模が大きくなるにつれて割合は小さくなる傾向にあるが、従業員数1,000人以上の企業で再び大きくなる。最も小さいのは従業員数300~999人の企業であり、1.9%を示している。
 日本は大規模企業で研究開発の集約度が高いのに対して、米国、ドイツ、韓国では小規模企業において研究開発の集約度が高く、国によって集約度が異なる。


【図表1-3-8】 日米独韓における企業の従業員規模別売上高に占める研究開発費の割合
(A)日本(2015年)
(B)米国(2014年)


(C)ドイツ(2013年)
(D)韓国(2015年)

注:
研究開発を実施している企業を対象としている。各国の研究開発統計により従業員数の分類が異なるため、国際比較する際には注意が必要である。
<日本>年度の値を示している。計(全産業)は金融・保険業を除く。
資料:
<日本>総務省、「科学技術研究調査報告」
<米国>NSF, “Business R&D and Innovation Survey 2014”
<ドイツ>BMBF, “Bundesbericht Forschung und Innovation 2016”
<韓国>韓国科学技術企画評価院、「研究開発活動調査報告書」

参照:表1-3-8


(5)企業への政府による直接的・間接的支援

 企業の研究開発のための政府による支援の状況を示す。
 「直接的支援(企業の研究開発費のうち政府が負担した金額)」及び「間接的支援(企業の法人税のうち、研究開発税制優遇措置により控除された税額)」を対GDP比で見ると(図表1-3-9(A))、日本は結果を示した国の中で直接的支援が最も小さく、間接的支援が大きい。他国を見ると、直接的支援が最も大きいのはロシアであり、次いで米国、韓国、ハンガリーと続く。間接的支援が大きいのはアイルランド、フランス、ベルギー、韓国などである。韓国は直接的支援、間接的支援ともに大きい。
 次に、日本についての政府からの直接的、間接的支援の推移を見ると(図表1-3-9(B))、政府から企業への直接的支援は長期的には減少傾向にあり、近年は横ばいである。一方、間接的支援は、2004年に著しく増加し、その後2008年には減少し、2013年には再び増加している。
 研究開発税制優遇措置額の変化には、いくつかの要因が考えられる。一つは研究開発税制優遇措置の変更である。大きな制度改正は数年ごとにあるが、細かな制度改正はほぼ毎年実施されている。二つめは特定企業の税制優遇措置額の変化である。例えば、連結法人の法人税額の特別控除額について、2013年のデータを見ると、上位10社で全体の70%を占めており、対象年における特定企業の研究開発税制優遇措置額によって全体の額が大きく変化する事が分かる。最後に、市場経済(景気・不景気)の変化である。税法上の所得(=益金−損金)がない場合、優遇税制措置の適用が発生しない。間接的支援の2004年の急増については、2003年に導入された「試験研究費の総額にかかる税額控除制度」による制度上の税額控除額の増加が主な理由と考えられ、この制度を活用する企業が2004年に増えたと推測される。2008年の減少については、法人税全額の減少が、控除額の減少につながったと考えられる。2013年の増加については、特定企業による税制優遇措置額の増加によるものと考えられる。


【図表1-3-9】 企業の研究開発のための政府による直接的支援、間接的支援
(A)各国比較(2014年)

注:
1)直接的支援とは、企業の研究開発費のうち政府が負担した金額の対GDP比率である。
2)間接的支援とは、企業の法人税のうち、研究開発税制優遇措置により控除された税額の対GDP比率である。
3)各国からの推計値 (NESTIが行った研究開発税制優遇調査による)、予備値も含まれる。
4)ロシアは2011年、ベルギーは2012年、米国、フランス、中国、ニュージーランド、ブラジル、イタリア、オーストラリアは2013年。その他の国は2014年。
5)スウェーデン、イスラエル、ポーランドは研究開発税制優遇のデータが提供されなかった。
資料:
OECD, “R&D Tax Incentive Indicators”

参照:表1-3-9



(B)日本の推移

資料:
総務省、「科学技術研究調査報告」、国税庁、「会社標本調査」、2011年はOECD, “STI Scoreboard 2013”、2012年はOECD, “R&D Tax Incentive Indicators”、2013年はOECD “STI Scoreboard 2015”、2014年はOECD,“R&D Tax Incentive Indicators”

参照:表1-3-9


 次に、政府からの研究開発における直接的支援を従業員規模別で見る(図表1-3-10)。
 日本の場合、政府からの直接的支援は従業員数500人以上の企業の割合が大きく、全体の85.5%を占める。対して従業員数49人以下の企業の割合は3.7%である。
 米国も従業員数500人以上の企業の割合が大きく、全体の86.5%を占め、他国と比較しても最も大きい。次いで従業員数49人以下の企業が大きいが6.5%程度である。
 ドイツは、従業員数500人以上の企業に対する政府による直接的支援の割合が最も大きいが、従業員数49人以下の企業でも23.5%、従業員数50~249人の企業でも21.5%と、この二つの企業規模においても割合が大きい傾向にある。
 フランスでは、従業員数500人以上の企業の割合が最も大きく69.7%を占める。次いで大きいのは従業員数49人以下の企業であり、16.2%を占めている。
 英国は従業員数500人以上の企業の割合が最も大きく、全体の79.5%を占める。対して最も小さいのは従業員数49人以下の企業であり5.2%を占める。
 韓国では従業員数500人以上の割合が39.6%と最も大きいが、従業員数49人以下の企業でも30.9%と他国と比較して大きい。また、従業員数50~249人の企業でも22.4%と大きく、249人以下の企業で政府による直接的支援の半数を占める。
 日本や米国では大規模企業に政府からの支援が集中しているが、ドイツや韓国では中小規模企業への支援も一定の重みを持つことが分かる。


【図表1-3-10】 主要国における政府から企業への直接的支援(企業の従業員規模別)

注:
<日本>は年度である。
<米国>連邦政府のみの値である。大部分あるいはすべての資本支出を除外している。
購買力平価は、参考統計Eと同じ。
資料:
OECD,“R&D statistics”

参照:表1-3-10



(9)この節の日本は、国際比較の際には「年」を用いている。本来は「年度」である。日本のみを記述している節では「年度」を用いている。