4.3科学と技術のつながり:サイエンスリンケージ

ポイント

  • 日本は論文を引用しているパテントファミリー数、パテントファミリーに引用されている論文数のいずれも米国に次いで多い。
  • 日本のパテントファミリーの25.8%が日本の論文を引用している。しかし、日本のパテントファミリーが最も引用しているのは米国の論文(44.9%)である。いずれの主要国においても、各国のパテントファミリーが最も引用しているのは米国の論文である。
  • 日本は、「電気工学」と「一般機器」のパテントファミリー数の割合が世界全体の割合と比べて高いが、これらの技術分野で論文を引用しているパテントファミリー数の割合は、他国と比較して低い。
  • 日本の論文で自国のパテントファミリーに多く引用されている分野は「物理学(48.1%)」と「材料科学(40.9%)」である。他方、「臨床医学(29.8%)」や「基礎生命科学(32.0%)」は自国のパテントファミリーから引用されている割合は相対的に低い。

(1)パテントファミリーと論文の引用関係

 科学と技術のつながり(サイエンスリンケージ)を見るために、パテントファミリーに記述されている論文の情報を用いて分析を行った。パテントファミリーと論文の引用関係についてのイメージを図表4-3-1に示す。
 この節では、論文を引用しているパテントファミリー数(1)やパテントファミリーに引用されている論文数(2)を各国・地域で集計した結果を示す。また、どの国の科学と、どの国の技術がつながっているのかを分析する。さらに、技術分野ごとの論文を引用しているパテントファミリーの割合や、論文分野と技術分野のつながり等について分析した。
 なお、ここではパテントファミリーは2005~2012年(ファミリーを構成する出願の中で最も早い出願年)を、論文は1981年~2012年(出版年)を対象として分析を行っている。


【図表4-3-1】 科学と技術のつながり(サイエンスリンケージ)の概念図

注:
論文とパテントファミリーの間を結ぶ線は引用関係を示す。


(2)論文を引用しているパテントファミリー数とパテントファミリーに引用されている論文数

 図表4-3-2には、(A)論文を引用している国・地域ごとのパテントファミリー数と、(B)各国・地域のパテントファミリー数に占める論文を引用しているパテントファミリー数の割合を示す。
 日本は論文を引用しているパテントファミリー数が米国に次いで多い。ただし、日本のパテントファミリー数に占める論文を引用しているパテントファミリー数割合(図表4-3-2中の(B))は9.0%であり、他国と比べて低い。この要因として、以下の2つが考えられる。まず、使用したサイエンスリンケージのデータベースには日本特許庁が含まれていないため過小評価となっている可能性がある。次に、この割合については、各国・地域のパテントファミリーの技術分野バランスも関係しており、論文を引用しやすい技術分野のパテントファミリー数の多さが関係している可能性がある。


【図表4-3-2】 論文を引用しているパテントファミリー数:上位25カ国・地域

注:
1)サイエンスリンケージデータベース (Derwent Innovation Index (2016年1月抽出))には日本特許庁は対象に含まれていないので、論文を引用している日本のパテントファミリー数は過小評価となっている可能性がある。
2)オーストラリア特許庁をパテントファミリーの集計対象から除いているので、オーストラリアの出願数は過小評価となっている。
3)パテントファミリーからの引用が、発明者、審査官のいずれによるものかの区別はしていない。
4)整数カウント法を使用した。
5)論文は1981-2012年、特許は2005-2012年を対象とした。
資料:
欧州特許庁のPATSTAT(2016年秋バージョン)、クラリベイト・アナリティクスWeb of Science XML(SCIE, 2016年末バージョン)、クラリベイト・アナリティクス Derwent Innovation Index(2016年1月抽出)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計。

参照:表4-3-2


 図表4-3-3には、(C)パテントファミリーに引用されている国・地域ごとの論文数と、(D)各国・地域の論文数に占めるパテントファミリーに引用されている論文数の割合を示す。
 日本はパテントファミリーに引用されている論文数が米国に次いで多い。また、論文数に占めるパテントファミリーに引用されている論文数割合(図表4-3-3中の(D))は、シンガポール、韓国、スイス、米国に次いで高く(1.5%)、日本が出す論文は技術に注目されていると言える。


【図表4-3-3】 パテントファミリーに引用されている論文数:上位25カ国・地域

注:
図表4-3-2と同じ。
資料:
図表4-3-2と同じ。

参照:表4-3-3


(3)主要国間の科学と技術のつながり

 次に、どの国の科学と、どの国の技術がつながっているのかについて、図表4-3-4に示す。ここでは、主要国を対象に、各国間のつながり(図表4-3-1の線で示す国のペア数)を集計することで、知識の広がりをみる。
 日本のパテントファミリーの25.8%が日本の論文を引用している。しかし、日本のパテントファミリーが最も引用しているのは米国の論文(44.9%)である。いずれの主要国においても、各国のパテントファミリーが最も引用しているのは米国の論文である。米国において自国の次に多く引用しているのは日本の論文である(9.4%)。
 中国のパテントファミリーでは自国の論文を引用している割合が、他の主要国に比べて低い傾向がみられる(10.3%)。


【図表4-3-4】 主要国間の科学と技術のつながり

注:
図表4-3-2と同じ。
資料:
図表4-3-2と同じ。

参照:表4-3-4


(4)技術分野別に見た論文を引用しているパテントファミリー数割合

 主要国を対象に、論文を引用しているパテントファミリー数の割合を技術分野ごとに集計したものを図表4-3-5に示す。ここでは各国における「バイオテクノロジー・医薬品」が1となるように正規化した値を示している。
 論文を引用しているパテントファミリーの割合が最も高い技術分野は、いずれの国においても「バイオテクノロジー・医薬品」であり、「化学」がそれにつづく。これらの技術分野は、論文の知識に注目し取り入れている分野であるといえる。他方、論文を引用しているパテントファミリー数の割合が低い技術分野は、「輸送用機器」、「その他」、「機械工学」である。
 日本は図表4-2-9で見たように、「電気工学」と「一般機器」のパテントファミリー数の割合が世界全体の割合と比べて高いが、これらの技術分野では、論文を引用しているパテントファミリー数の割合が欧米と比較して低い(電気工学0.16、一般機器0.18)。このことから、日本は技術分野のバランス、個々の技術分野における論文の知識の利用の両面で、科学と技術のつながりが構造的に小さくなっている可能性がある。


【図表4-3-5】 技術分野別論文を引用しているパテントファミリー数割合
(指数化した値)

注:
全パテントファミリー数(2005-2012の合計値)に占める論文を引用しているパテントファミリー数(2005-2012の合計値)の割合を集計し、各国におけるバイオテクノロジー・医薬品が1となるように正規化した。左記以外の注は表4-3-2と同じ。
資料:
図表4-3-2と同じ。

参照:表4-3-5


(5)論文分野と技術分野のつながり

 図表4-3-6には、世界においてどの論文分野がどの技術分野とつながっているのかを示す。
 パテントファミリーに多く引用されている論文分野は、「基礎生命科学」、「化学」、「臨床医学」である。また、これらの分野の論文を多く引用している技術分野は、「化学」、「バイオテクノロジー・医薬品」であることが分かる。


【図表4-3-6】 世界における論文分野と技術分野のつながり

注:
図表4-3-2と同じ。
資料:
図表4-3-2と同じ。

参照:表4-3-6


(6)日本の論文とパテントファミリー国のつながり

 ここでは、日本の各分野の論文がどの国のパテントファミリーに引用されているのかについて、主要国から引用されている割合を示す(図表4-3-7)。
 日本の論文で自国のパテントファミリーに多く引用されている分野は「物理学(48.1%)」と「材料科学(40.9%)」である。他方、「臨床医学(29.8%)」や「基礎生命科学(32.0%)」は自国のパテントファミリーから引用されている割合は相対的に低い。
 日本は「臨床医学」の論文数は増加傾向にあるが(図表4-1-9)、日本では、それを最も引用するパテントファミリーの技術分野である「バイオテクノロジー・医薬品」の割合は低いことから(図表4-2-9、図表4-3-6)、現状では日本の科学知識が日本の技術に十分に活用されていない可能性がある。


【図表4-3-7】 日本の論文はどの国のパテントファミリーに引用されているか

注:
図表4-3-2と同じ。
資料:
図表4-3-2と同じ。

参照:表4-3-7


テクニカルノート: パテントファミリーの集計

 特許出願数の国際比較可能性を向上させるために、科学技術指標2017では、パテントファミリーによる分析を実施している。
 パテントファミリーとは優先権によって直接、間接的に結び付けられた2カ国以上への特許出願の束である。通常、同じ内容で複数の国に出願された特許は、同一のパテントファミリーに属する。したがって、パテントファミリーをカウントすることで、同じ出願を2度カウントすることを防ぐことが出来る。また、パテントファミリーをカウントすることで、特定の国への出願ではなく、世界中の特許庁への出願をまとめてカウントすることが可能となる。
 しかしながら、パテントファミリーの分析結果については、利用したデータベース、パテントファミリーの定義の仕方、パテントファミリーのカウント方法に依存する。
 そこで、以下では、他の分析との比較の際の参考とするため、科学技術指標2017のパテントファミリーの分析に用いた手法をまとめる。なお、説明の中で、「tlsXXX」として参照しているのは、PATSTATに収録されているテーブルの名称である。

A) 分析に用いたデータベース
 欧州特許庁のPATSTAT(2016年秋バージョン)を使用した。PATSTATには、世界100か国以上、9,000万件以上の特許統計データが含まれているとされる。

B) パテントファミリーの定義
 パテントファミリーの定義にはさまざまなものが存在するが、科学技術指標2017では欧州特許庁が作成しているDOCDBパテントファミリー(tls201_appln)を分析に用いている。

C) パテントファミリーのカウント
 パテントファミリーのカウントの際には、OECD Patent Statistics Manualに準拠し、ファミリーを構成する出願の中で最も早い出願日、発明者の居住国を用いた。国を単位とした整数カウントを行った。

D) 発明者情報の取得方法
 PATSTATの発明者情報や出願人情報には欠落が多いことから、各パテントファミリーと国の対応付けは以下のように行った。発明者情報及び出願人の情報は、tls206_person、tls207_pers_appln、tls227_pers_publnを用いて取得した。
  ① パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、発明者が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
  ② 発明者が居住する国の情報が入っていない場合は、パテントファミリーを構成する全ての特許出願を検索し、出願人が居住する国の情報が入っている場合は、それを用いた。
  ③ 上記の手順でも国との対応付けが出来なかった場合は、最初の出願は、出願人が居住する国に行うと仮定して、最も早い出願の出願先の国の情報を用いた。

E) パテントファミリーの同定
 DOCDBパテントファミリーのうち、1つの特許受理官庁に出願されたものを単国出願、2つ以上の特許受理官庁に出願されたものをパテントファミリーとした。

F) 技術分野の分類
 国際特許分類(IPC)を用いた技術分野の分類には、WIPOが公表しているIPC - Technology Concordance Table
  [http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/technology_concordance.html] (February 2016)を用いた。
 一つの特許出願に複数の技術分野が付与されている場合は分数カウントにより各分野に計上した。

G) パテントファミリーの最新年
 パテントファミリーは、2カ国以上に出願されて初めて計測対象となる。PCT国際出願された特許出願が国内移行するまでのタイムラグは30カ月に及ぶ場合がある。したがって、パテントファミリー数が安定し分析可能な最新値は2012年である。なお、出願先の分析については2011年を最新値とした。パテントファミリー+単国出願については、2013年を最新値とした。

H) その他の留意点
 ・PATSTAT中に出願情報は収録されているが(tls201_applnにレコードはある)、公報等が出版されていない出願(tls211_pat_publnに該当するレコードがない)については、出願が取り下げられたと考え分析対象から外した。
 ・オーストラリア特許庁への出願データについては、集計値が異常値と考えられたので、分析対象から外した。
 ・短期特許、米国のデザイン特許や植物特許は分析対象から外した。



(1)図表4-3-1で見た場合、論文を引用しているパテントファミリー数は日本の場合は2件、米国の場合は1件と数える。
(2)図表4-3-1で見た場合、パテントファミリーに引用されている論文数は日本の場合は2件、米国、英国、ドイツの場合は1件と数える。